4.会社売却の交渉相手の選び方と交渉方法

4-1. 売却先(買い手)の選び方

売却先(買い手)の選び方は、目標とする価格水準やM&A準備で蓄積した詳細情報を前提として、できるだけ柔軟に検討すべきです。

同業や周辺業種の事業会社のみを候補会社とするケースをよく目にしますが、
必ずしも目標達成のために最適な相手がその業界内にいるとは限りません。
事業内容を説明するのが簡単である、コスト削減シナジー(人員削減等)がありそう、
というだけでは、最適な相手であるという理由にはなりません。

ところで、コーポレートガバナンス、株主総会、アナリストによる評価、マスコミなど上場企業は外部からの目を常時気にしなければいけませんから、
買収価格は、純資産を基礎に算定するとか、
のれん償却負担が生じてもまず赤字にならない範囲でしか買収しないなど、
買収失敗の責任に過敏にならざるを得ない企業が多いのが実態です。

とはいえ、リターン(成長の果実)とリスク(投資負担)は本来表裏の関係にありますので、
潜在力や成長可能性のある優良な会社は、
リターンの可能性を織り込んだ投資額、
投資後に売り手企業を成長させるため投入する努力といった形で、
妥当なリスクを取った買い手がその果実を得ることができるというのが、
本来あるべき姿であると思います。

このような意味で、「縁がある先が良い買い手」などの業者の商売口上に惑わされず、
売り手は、買い手の都合も考慮しつつ、買い手の能力や意欲を基準として、
もっともふさわしく、実現可能な相手を選ぶ立場にあるのです。

  • 形態(事業会社、事業投資会社、投資ファンド)
  • 業種(同業、周辺・類似業種、異業種)
  • ビジネスモデル(顧客、価格、商品サービスの類似性)
  • 国籍(日本籍企業、海外籍企業)

このように様々な角度から、あなたの会社を買収することで大きなメリットを得られそうな相手を探すことが重要です。

具体的には、
まず、会社成長のために必要な経営資源、シナジー可能性を中心に、選択基準項目を整理し、
できるだけ大きな母集団から、効果の高い項目との関連性が高そうな会社を絞り込み、
現実的にM&Aによる成長施策に関心があり、それを成功させる力量がありそうで、かつ、
資金力を有する候補にさらに絞り込みます。

買い手候補のイメージ

できれば、10社以上の期待できそうな候補会社を準備できると、
安心してM&Aの提案ステージに入ることができると思います。
ストラチャリングの工夫等によりさらに広範囲に拡大することも可能なケースがありますが、個別事情に応じた無数のパターンがあるためここでは割愛します。

<投資ファンドを候補に入れることのススメ>

投資ファンドは年金資金等のスポンサーから資金運用を受託し、投資の数年後に売却益を獲得することでスポンサーに資金を増やして返すことを目的とした投資家です。
売却益を確保するためには高い価格で買うと当然不利になりますので、安く買い叩くイメージが定着していると思いますが、各投資ファンドは様々な特徴や得意技をもっており、必要な投資利回りを獲得できそうな範囲であれば、適正価格で投資する姿勢をもっているファンドも数多く存在しています。
特に、以下のケースでは事業会社よりも高く売れる場合がありますので、先入観で食わず嫌いをせずに、候補先に加えることをお勧めします。

  • 事業会社の候補に、明確なシナジーがある先がいない
  • 事業会社の候補に、純資産ベースの価格で検討する先しかいない
  • 事業会社の候補はいるが規模の差が大きすぎる

投資ファンドの場合、時間軸を絡めたストラクチャーにより売却総額を高めることができる可能性がある上、直接的に投資ファンドとの間でシナジーがなくとも、ロールアップ(追加買収)という手段で事業会社間シナジーを創造することが可能です。さらに、株主によってのメリットが生じるような取引形態も柔軟に検討してもらえる場合があります。

<海外に強い日本企業、外国籍企業を候補に入れることのススメ>

多くの業種において、日本の人口減は市場縮小という形でマイナスに作用しています。
市場規模に応じた適正供給能力を上回る数の供給業者がいることから、将来の成長性を説明することが困難なケースが多くなってきています。会社を高く売るため、厳しい制約条件下の候補(ドメスティックな国内企業)から選ぶことに拘らず、成長している海外市場で事業基盤を構築している以下のような企業を候補に入れることで、非連続的な成長可能性が売却価格に反映される可能性があります。

  • 海外で事業展開している日本企業
  • 海外企業

4-2. M&Aでの交渉方法

M&Aでの交渉方法は、大きく相対交渉と競争入札の2つに分けられます。
目標とする価格水準やM&A準備で蓄積した情報を基礎として、
相手候補について検討しながら、交渉方法も同時に検討すべきです。

  • 相対交渉は、買い手1社とのみ交渉する方法
  • 競争入札は、買い手候補複数社と同時に交渉する方法

相対交渉vs競争入札

相対交渉は、他に競争相手がいないため、買い手の交渉力が高まりやすいですから、
高い価格での売却を目指すのであれば得策とは言えません。
できるだけ競争環境を交渉プロセスに持ち込むべきです。

ただし、競争入札は、買い手の側に立ってみると、
長期間の重労働やタフな交渉の結果、徒労に終わる可能性も高い交渉方法です。
M&A交渉では相対交渉しか受け付けない、という方針を取っている企業もいます。

また、競争入札は同時に複数社と交渉するため、
交渉期間内における売り手企業の経営者や幹部役員の負担は非常に大きなものになります。
一方、相対交渉は買い手候補との間で今後の経営方針をすり合わせる時間を確保しやすく、
将来の成長可能性を両者でしっかり理解できるというメリットもあります。

つまり、相対交渉と競争入札は絶対的にどちらが有利というものではなく、個々の状況毎に許される範囲で、売り手にとって最も有利となりそうな、相対交渉と競争入札の中間的な方法も検討すべきです。